なにさま?!ミーハーズ


2008年冬ドラ『あしたの、喜多善男~世界一不運な男の奇跡の11日間』

この冬で一番好きなのがこのドラマです。何がいいって、小日向文世が主役と言う点。ホントにごく普通のおじちゃんにしか見えないもんね、お話通り。本が先かキャスティングが先かはわからないけど、他のキャストもなかなか味があるし、企画した人たちはお目が高い。





昔、『アナザへヴン』の頃、今は亡き友人と「飯田譲治は性悪説だ」と話し合ったことがあった。『あしたの、喜多善男』を見ているとその言葉を思い出す。性悪説は簡単に言ってしまえば「人間の本質は悪である。故に秩序が必要」ということ。私自身は性善説寄りなのだが、悪いことも知らなければいいことさえ理解できないのでは・・・と思うこともある。性善説・性悪説について突き詰めるとそれだけで膨大な文章になってしまいそうなのでこの辺で置いておくが、『あしたの、喜多善男』に出てくる人々はそれなりに悪くてそれなりに清らかさを持っている、そんな印象を持つ。松田龍平扮する八代平太しかり、栗山千明扮する長谷川リカしかり、小西真奈美扮する鷲巣みずほしかり・・・。その両方がその人なりのバランスで共存していて、折り合いがついている人もいれば、そのバランスに溺れている人もいる。でも自分を振り返っても似たようなものだから、ストーリーとしては特殊な状況だけれど、極めて当たり前の人間を描いているのかもしれないとも思う。

さて、この喜多善男。人が嫌がることも淡々とこなすような、彼を知る人は口を揃えて「いい人」と称するような男。でもずっと不運だったと思っている。人生最高の時は11年前、最愛の女性と出会ってから離婚するまでの期間。11年前に亡くなった親友の命日まで11日、その命日の日に自ら死のうと決意し、このドラマはその11日間を描いている。初回、喜多善男の独白に胸を打たれた。正確には覚えていないけど、彼の「世の中に必要とされたことなんかない、世の中と自分が関わりがあると思えない、生きている意味があるのか?」という言葉。孤独感、と言ってしまえばそうかもしれないけど、この感覚は私自身にも無縁の言葉ではない。どんなに真面目に働こうが努力しようが、自分がいなくても世の中は回るとか、私じゃなくてもいいのかもと考えてしまうような時が、たまにだけど、私にもある。このドラマを見るまでは気がつかなかったけど、もしかしたらこの感覚は誰しもが大なり小なり感じる可能性のある感覚なのかも。ごく当たり前の。その感覚の果ては人それぞれ違う道を辿るのだろうけど。

喜多善男をいい人、優しい人と思う人は多いだろう。気弱な男でもあるけれど。元妻のみずほは優しい男だと思いつつ、結婚していた時でさえその善なる部分を憎悪していた。11年経った今も。なぜ憎悪するのか、「なぜ結婚したのか」と再会した喜多善男に問われて「あの時の私は本当の自分じゃなかった」と返答するが、では本当のみずほはどんな人?という疑問を含め今後の展開で明らかになっていくのだろう。でも私は「優しいところがいや」というみずほの気持ちもわかる。優しい人やいい人はそれだけで他人に罪悪感を感じさせることがあると思うから。そのいい人に好意を持てない自分を自覚するのも、単なる相性とかで片付けられない複雑な感情を持つこともある。その純真さが、ただ善人だと言うことがその人自身は何も言ってないのに、自分を責めているとか否定されているような感覚に陥ると言うか。こうなるとその善人を憎悪することでしか自分のアイデンティティを保てない。こんなことを常に考えているわけではないけれど、心のどこかにはいつも存在している。

喜多善男が果たして完全に善なる男かというと実はそうでもない。ネガティブ善男と名乗るもう一人の喜多善男が出現し、彼を困惑させる。喜多善男本人にしか見えないのである意味では多重人格的なのだけど、私は人間は誰しも多重人格者になり得ると思っているので、この点も私のツボにはまっている。まあ漫画で言えば「悪魔の自分と天使の自分」みたいなことだよね。「冷静な私とそうじゃない私」とか。

そんなこんなでこのドラマは私の人間観みたいなものを刺激してくるわけです。台詞の遊びもとってもクールだし。生瀬勝久扮する杉本と手下の面白会話とか、松田龍平に「俺の親父がよく言ってたよ」だの「俺はファザコンじゃないぜ」だの言わせるのとか。いや、後者はベタか(笑)。みずほに喜多善男が嫌いだのイヤだのと散々言わせた挙句、別の場面で励ます要潤扮する森脇を「優しい人」の一言で片付ける冷たさも好きだったな。一言で何かを伝える台詞って、いい。そして、4話目の今夜。偶然再会した中学時代の恩師の佐藤先生の言葉に思わず涙がにじんだ。佐藤先生夫妻は一見ごく普通の旅行を楽しむ老夫婦。でも喜多善男と同じ年頃の息子さんが人を殺めて刑に服したことでひとところにいられなくなったという。善男に背中をさすられながら、息子にもされたことがないと泣く。この台詞も好きだった。息子が殺人者になったことしか具体的なことは言ってないけど、佐藤先生一家がどんな様子だったのか、見る人それぞれで想像させられてしまう奥行きのある台詞だと思う。その家族像はきっと千差万別でいいのだ。

それに!
宵町しのぶがめっちゃかわいい。どんなわがままも聞いちゃうよー。足裏も押しちゃう。誘拐もしちゃう!だってもうめちゃくちゃかわいいもん。かわいいってだけでおっけー。って、おっさんか、私は(笑)。若葉マークの元外科医の殺し屋が温水さんってのもいいねー。絶対失敗しそうだもん。

どんな最終回を迎えるのか、今から楽しみな作品だ。予定調和的な結末でないことを願うのみ。
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by yu-er_911count | 2008-02-06 04:25 | ドラマ

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「なにさま?」とは「ドラマや映画などについて熱くなるあまり、いかにもえらそうに、あるいはプロデューサー気取りで語ってしまう」おバカなことである!ネタバレご容赦!
by yu-er_911count
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